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動物から神谷の農地を守ろう!PJ ②「プロジェクトの企画」

更新日:2021年8月30日




 地域の猟師さんからイノシシを捕まえるための「くくり罠」の構造を学ぶ。

 捕獲は鳥獣被害対策において重要だが、捕獲にかかる負担は大きく、今後いまの捕獲圧を

 維持していくためには、新たな取り組みが必要だろう。

 


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「プロジェクトの企画」



 タテマエでは、学生一人一人が自分の興味に沿ってプロジェクトを企画し、メンバー内で協議しながらその活動をしていくことになります。


 私は「鳥獣被害対策」をテーマとし、約1年間かけてそれに取り組んでいくことになりました。



 さて、本題に入る前に、鳥獣被害についてあまり知らないという人もいると思うので、簡単に「鳥獣被害とはどのような問題で、何故起こっているのか」について、説明をさせてください。飛ばしてもらっても大丈夫です。




鳥獣被害の基礎知識

 鳥獣被害とは、平たく言うと、野生動物が人間や社会に損失を与えるという問題です。多くの人が想像するのは、農作物被害だと思いますが、それ以外にも、人身被害(クマに襲われることによる怪我等)や、生活被害(イノシシに庭を掘り返される等)などがあります。  

 ただやはり、一番深刻なのは、農作物被害です。



 令和元年度における全国の農作物被害額は、約158億円であり(図1)、イノシシ、シカ、サルを筆頭に大きな被害が発生しています。

 被害は年々減少傾向にありますが、以前として高い水準で推移しています。数十年ほど前からこの鳥獣被害額は大幅に増加しました。



図1:農作物被害額の推移(農林水産省)




 数十年前と比べて被害が増加した理由は、


①動物の個体数が増加した 

②人と動物の境界線が曖昧になった 


等があると言われています。


については分かりにくいと思うので、少し説明をします。


 野生動物は元々非常に臆病で、人と遭遇するのを避けようとします。人間の生活圏に入るのは動物にとってリスキーな行為であったため、人と動物の「境界線」というべきものが存在していたのです。この境界線として機能していたものが「里山」です。里山という言葉には色々な定義がありますが、ここでは「人間が資源利用のために使い、その影響を受けた山」と定義します。



 おおよそ1950年代まで、里山は人の生活に必要不可欠な場所であり、人が頻繁に入って利用(管理)していました。よって里山は、見通しが良く、また人の居住地と近い場所にあるため、「人の気配がする場所」でした。


 動物にとって、その里山に出てくる行為は、人と遭遇する可能性が高いリスキーな行為であり、そのため里山や、その内側にある田畑にまで来ることはほとんどありませんでした。


 しかし戦後、燃料革命や化学肥料の普及に伴い、里山の資源価値が低下しました。それにより、次第に里山は雑木や竹で覆い茂るようになり、人が入る頻度も下がったため、「人の気配がする場所」ではなくなりました。そのため、動物は里山まで平気で降りてくるようになりました。


 これが、人と動物の生活圏の境界が曖昧になったということです。


 

 鳥獣被害対策については、3本の柱があります。


①物理的防除(柵の設置など)

②有害駆除の捕獲(被害を出している個体を捕獲)

③環境整備(動物の隠れ場所をなくしたり、動物を誘因する餌を減らす)



 被害を根本的になくすには、この3つを意識して行わなければいけません。

 例えば、②の捕獲だけやれば被害が減るということはなく、①や③も実施して初めて根本的な被害軽減につながると言えます。




 また、鳥獣被害対策は個人個人で行うのはもちろん大切ですが、可能ならば「集落ぐるみ」で行うことが推奨されています。それは、労力面の負担低下にもつながりますし、被害防止の効果の面でも、集落ぐるみは非常に有効的です。ただ、集落ぐるみの対策は、地域の合意形成が必要であり、そう簡単には取り組めません。




 鳥獣被害がここ数十年で増加して原因には、人の社会環境の変化が大きく関係していること、対策には3本の柱があること、対策は集落ぐるみで行うのが効果的であるということが分かって頂けたと思います。


 ここは鳥獣被害対策を考えるにあたって、非常にキーポイントとなるので、頭に入れて置いてもらえらばと思います。





神谷地区の鳥獣被害

 さて、鳥獣被害の基礎知識を説明したところで、次は神谷地区の鳥獣被害について説明させてください。




 神谷地域は5つの地区があります。5地区はいずれも周囲を山に囲まれ、野生動物の生活圏との距離は非常に近い位置にあります。


 最も被害を出しているのはイノシシで、稲やサツマイモ、果樹などに大きな被害を出していました。また近年サルの被害も増えてきて、果樹などが被害に遭うようになりました。ハクビシンやカラスも果樹に被害を出しています。正確な被害額は分かりませんが、神谷地区の主要産業は農業であることから、大きな被害が出ていると推測できます。



↑神谷地区の一部。家と田畑が点在し、周囲が山で囲まれていることが分かる。

 動物の生息域と非常に近い。




 2020年(まだ僕がタテマエに入る前のことです)、この神谷地域で、鳥獣被害対策において非常に大きな動きがありました。それが、「集落協定」(1)の開始です。


 5地区の中の2地区が、合同で集落協定を締結し、中山間地域直接支払制度の補助を受けるようになったのです。この中で、鳥獣被害対策はこの制度の活動と柱に挙げられました。


 これについては、後々詳しく説明させていただきます。





プロジェクトの立ち上げ ー企画構想ー


 すみません、また前置きが長くなりました。


 前述したように、私は鳥獣被害対策をプロジェクトに選びました。


 ただテーマは決まったものの、実際に地域で鳥獣被害のどのような活動をするのか、その具体的な内容に関してはまだ白紙の状態でした。



 どんなプロジェクトにしても必要なものがあります。それが5W1H、すなわち、「なぜ、いつ、どこで、何を、誰と、どのように」です。この中で私が最も大切だと思うのは、「なぜ」という部分です。その目的はどこにあるのか、何を目指すのかというものです。





 なぜ、地域で鳥獣被害対策の活動をするのか、そう自分に問うたとき、真っ先に思いついたのはこれでした。



「鳥獣被害が発生していることが、地域の人にとって問題の種になっていて、それを減らすことが地域の人の喜びにつながるから」




 地域で実際の被害を減らすことに貢献にしたい、という思いから、少し踏み込んだテーマを選んだのです。



 僕は学部生の時から、鳥獣被害対策に興味を持ち、それに関わっていましたが、行っていたことはあくまで「調査」でした。例えば、被害や対策の現状を調べたり、そこから現在の対策の課題についての考察などを行い、最終的に卒業論文を書きました。



 その調査を通して、多くの地域の人と関わりを持ちました。しかし、それはあくまで「調査」としての関わりでした。そのため、地域との関わりの深さというか、介入の度合いというものは、あまり大きくはなかったのです。あくまで私は外部として、地域の鳥獣被害を見ていました。


そういうこともあり、私に中にいつしかある考えが芽生えていました。



「なにか地域に貢献したい」



という思いです。



 前回、大学1年生のときに実習で四国の山奥に数週間滞在したという話をしたと思います。前回は書きませんでしたが、実は、あの実習で一番感じたのは、地域の人にお世話になって、色々自分自身はプラスになる一方、自分は地域に何も返せない、フィードバックできないという「自分の無力さ」でした。




 そういう体験もあり、私は地域の人と「協働」すること、地域の中で「アクションを起こすこと」に、底知れす魅力を感じていたのかも知れません。



 確かに「協働」となると「調査」で関わっていた時の何倍も介入の度合いが上がり、また責任も生じます。下手に「協働」を目指そうとすることは、逆に地域にとって、「迷惑」になってしまう可能性もあります。そのような心配事はあったのですが、今回自分は、「知ること」ではなく「一緒に課題を解決する」ことをゴールにしたいという思いがあったのです。


 



 さて、プロジェクトの大枠の方向性が定まりました。ゴールは、地域の人と一緒に被害を減らすためのアクションを起こすこと、そして実際に被害を減らすことです。




↑コロナのため対面で集まる機会が制限されたこともあり、プロジェクトについての話し合

 いのほとんどは、オンライン上で行われた。この段階では地域への訪問が全くできて

 いなかったため、現場が分からないまま、企画を練るという状況であり、とても難しかっ

 たことを覚えている。







ステージ1:現状の把握

 さて、プロジェクトの方向性が決まったのが、2020年10月あたり。そこから、目標に向けて、アクションしていくことになります。



 そのアクションの第1弾として行ったのが、「現状の把握」です。



 一番知りたいのは、「どのような取り組みをしたら、被害を減らすことができるのか」ということ。

 それを知るためには、地域の鳥獣被害対策はどのくらい進展しているか、いま抱える課題は何か、などを知る必要があったため、基礎的なことから状況の把握を行うことにしました。


 調査のための手段は、アンケートまたはインタビュー(聞き取り)の二つの手段がありますが、アンケートは既に伊藤さんが実施してくれていたので(*前回の記事を参照)、聞き取りによって現状把握を行うことにしました。


 


 聞き取りを実施するため、中山間地域直接支払制度の役員をされており、タテマエの事務局でもある伊藤さんに会の設定をお願いしました。伊藤さんの方から、地域で被害を被っている農家、また被害対策として捕獲を行っている猟師など、鳥獣被害に深い関わりがある方に声を掛けてもらい出席して頂きました。聞き取りは計3回で、2020年11月15日、2021年1月16日、1月24日です。場所は全て集落の公民館などで行いました。



 またそれと並行して、地域を実際に歩いてみての現地でのフィールド調査も行いました。フィールド調査では、設置している柵の状況の確認などを行いました。


↑グループインタビューの様子。神谷地区は標高が高く冬は寒い。またコロナ対策のため

  マメに換気を行っていたので冷気が入ってくる。温かい飲み物を飲みながら行った。 

 (2021年1月24日)





 聞き取り及びフィールド調査を行ったことで、様々なことが分かってきました。神谷地区の鳥獣被害対策は問題ばかりではなく、むしろ非常に先進的な所があり、特に捕獲面に関しては優れているということです。ただ、やはり課題もいくつかあり、それが、被害をなくせない原因となっていました。




 次回は、現状把握のために行った調査で分かったことについて、具体的に書いていこうと思います。





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*注釈


(1)集落協定、中山間地域直接直接支払制度

 農業の生産条件が不利な地域における農業生産活動を継続するため、国及び地方自治体に 

 よる支援を行う制度。

 中山間地域直接支払制度による圃場金をもらうには、集落等を単位に、農用地を維持・管

 理していくための取決め(協定)を行う必要があります。


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