動物から神谷の農地を守ろう!PJ ③「現状把握」
- タテマエ_広報
- 2021年8月28日
- 読了時間: 10分
更新日:2021年8月30日
いよいよ、アクションの段階に入りました。アクションの第1弾は「現状把握」です。
どのような対策を行えば被害が減るのか、それを知るためには、現状の把握は欠かせません。
そのための調査として、2020年11月~2021年1月に、計3回の聞き取り及びフィールド調査を行いました。
簡単に、それぞれの聞き取りの詳細について説明します。
第1回
日時:2020年11月23日
参加者:4名
内容:聞き取り
第2回
日時:2021年1月16日
参加者:5名
内容:聞き取り、地図を使った被害情報の共有
第3回
日時:2021年1月24日
参加者:6名
内容:地図を使った被害情報の共有、今後の対策に関する議論

↑聞き取りの様子。地図をA1サイズに印刷して持っていき、被害のある場所を地図上で示
してもらった。それにより把握がスムーズになるのはもちろん、地域の人同士も、情報を
共有しやすくなり話しが弾んだ。
聞き取りで分かったこと
ここから、グループインタビューと現地調査によって分かったことを項目ごとに説明していきます。
項目は以下の3つです。
1、被害の現状
2、実施している対策
順番に説明していきます。
1、被害の現状
現在、神谷地域で特に被害を出している動物はイノシシ、ハクビシン、サルの3種です。種類ごとに順々に説明していきます。
イノシシ

最も被害を出しているのがイノシシです。イノシシ被害の特徴として、被害量が大きく、また、被害に遭う作物も、水稲を始め、根菜類、果樹など幅広いことが挙げられます。
「イノシシが一番被害出す」
「サツマイモを植えとったんやけど、全部食べられてよ」
「柵を張っても破って入ってくる」
というように、多くの人が被害に遭っていると発言し、最も被害を出している種であることが分かりました。
ハクビシン

主に果樹が対象ですが、ハクビシンの被害も深刻です。神谷地域には大きな果樹園が二つあり、そこではブドウ、ナシが栽培されているのですが、それを狙ってハクビシンはやってきます。ハクビシン被害の特徴としては、被害量の割に、被害の額が大きくなるところにあります。それは、ブドウ、ナシといった果物が単価が高いので、被害額は非常に高くなってしまうのです。
「被害額は100万は優に超える」(果樹園経営者)
という発言からも分かるように、ハクビシンは果樹園にとって悩みの種となっています。
サル

サルの被害については、現在はそこまで被害は大きくないものの、今後増える可能性があり、注意が必要です。
「サルは以前と比べたら良く見るようになったねえ」
「そんな頻繁に見るものじゃないけど、たまに声が聞こえるんよ」
「うちの小夏(柑橘類の一種)がやられた」
というように、今のところ被害はそこまで大きくないものの、以前より被害が増えてきたことが分かります。
サルは基本的に群れ生活をする生き物です。一般的に、サル群れの行動圏が集落と重なると、大きな被害が発生するようになります。行動圏と重なるというのは、地理的な要素とサルの認識、つまり、サルに「餌場」だと認識されるかどうか、という要素が関係しています。
話しを聞く限り、神谷地域はまだサルの行動域と重なっていないと思うのですが、もしサルの群れに「餌場」だと認識されると、今後被害が甚大化する可能性もあります。
さて、種類ごとに、被害の状況を書いてきました。次は、「被害量の増減」について書きます。すなわち、ここ数年で被害は「増えてきているのか」「減ってきているのか」というところです。
聞き取りの結果、今から10年ほど前は、被害が今よりも大きかったことが分かりました。
「今もイノシシの被害はあるが、以前よりはマシにはなった」
と言われる方が多くいました。
Iさんは神谷地域とは違う地域に住んでいて、そこから農作業をするために通ってきています。Iさんが農業をするために神谷地域に通い始めたのは、今から約10年前で、その時はイノシシの被害が酷かったといいます。
「10年前、ここで農業始めたときイノシシの被害酷かった。作物も作れんような状況だっ
た。その時よりは今は被害少ない」(Iさん)
また他の方からも、約10年前は今よりも大きな被害が発生していたという意見が出ました。
では、どうして被害は減ったのでしょうか。上記に発言に続けてIさんは、このように述べています。
「被害がひどいから、それで何とかしようと対策を行った。柵を張ったり、Tさんと共同
で捕獲を行ったりして、前よりは被害は減った」
被害が減った理由は、対策をしたことが大きく関係しているようです。
では次に、地域の方々がどのような対策をしたのか、見ていきます。
2、実施している対策
前回の記事で、被害対策には、3つの柱があると説明しました。以下の3つです。
①物理的防除(柵の設置など)
②有害駆除の捕獲(被害を出している個体を捕獲)
③環境整備(動物の隠れ場所をなくしたり、動物を誘因する餌を減らす)
神谷地域で行われている対策は、主に①と②であることが分かりました。
それぞれ、順々に説明していきます。
①物理的防除(柵の設置など)
「畑の周りに柵を張って対策してる」
「柵張らんと作物は作れんね。絶対入られる。」
「柵を張っても被害が出るところがある。」
聞き取りの結果、対策として、多くの人が柵の設置を行っていることが分かりました。しかし、柵を張ることで被害はなくなったという人がいる一方、柵をしても被害に遭ってしまった人もいました。
実際に現地を歩いて柵の確認も行いました。柵にも様々な種類があります。地区内で張られている柵は主に4種類で、ワイヤーメッシュ柵、電気柵、トタン柵、ネット柵です。
少し専門的な話になりますが、以上の柵の中で、トタン柵とネット柵は強度が不十分だと言われています。地域の人も、
「ネット柵は噛み切られて入られた」
「トタンは上から押しつぶされて壊された」
という言われており、やはり、この二つでは被害を完全に防ぐことは難しいようです。
現地を歩いていると時々、トタン柵の外側に、ワイヤーメッシュ柵を張った「2重柵」も見られました。これは、初めはトタンを張っていたものの、イノシシによって壊されたため、補強でワイヤーメッシュを張ったのだと考えられます。
ネット柵、トタン柵は強度不十分のため、破られる恐れがあると言いましたが、電気柵、ワイヤーメッシュならば、被害は完全に防げるかというと、そうではありません。
それぞれ「維持・管理」が非常に重要になってくるのです。
ワイヤーメッシュ柵の場合、イノシシが柵を壊して入ることもあります。そのため、定期的に柵の見回りを行って、隙間ができていないか確かめる必要があるのです。
電気柵の場合は、ワイヤーメッシュ柵よりも更に維持管理に気を使う必要があります。電気を流している線に雑草などが当たると、そこから漏電し電圧が低下してしまい、効果がなくなってしまうのです。そのため、草が線に当たらないように頻繁に草刈をする必要があります。
実際、現地を歩いてみて電気柵を観察したとき、草刈りが不十分で漏電し、効果が半減している箇所がありました。

↑水田に設置されたワイヤーメッシュ柵。ワイヤーメッシュ柵、電気柵ともに被害防止の
効果は高いが、定期的な維持管理が不可欠。
聞き取りの結果、「柵を張っても被害が出る」という人が一定数いることが分かりました。その理由は、このように柵の維持管理が不十分である可能性があります。
今後、被害を減らすためのアクションを考えていく上で、重要なところですね。
②有害駆除の捕獲(被害を出している個体を捕獲)
まず、簡単に捕獲に関して、基本的な情報を説明させて頂きます。
有害駆除捕獲(以下、捕獲)は鳥獣被害対策の3本柱の一つですが、捕獲に関して、非常に深刻な課題があります。それは、狩猟者の減少・高齢化です。
狩猟者が減少・高齢化することによって、捕獲を担う人の数が減り、その結果一部の猟師に捕獲の負担がかかるようになっているのです。これは全国共通の課題です。

↑捕獲の様子。捕獲作業は危険と隣り合わせであり、また命を奪うという行為でもあるので
決して楽ではない。
さて、神谷地域ですが、捕獲についてはどのような状況なのでしょうか。
実は、神谷地区は、捕獲に関して、非常に素晴らしい取り組みを行われています。それは、「集落ぐるみでの捕獲」です。捕獲を地域の方数人でを協力して行っているのです。
Iさんは、約10年前から農業をするために神谷地域に通うようになりました。しかしイノシシによって甚大な被害が出てしまいます。そこで、地区で農業をしているTさんに声を掛けて、一緒に「箱罠」を使って捕獲をすることにしたのです。Iさんはその時のことをこう振り返っています。
「10年前、ここで農業始めたとき被害酷かった。それで何とかしようとTさんと共同で捕獲を始めた。それでいまは被害が減って、耕作できるようになった」
二人がやっている箱罠は、見回りを原則毎日行い、掛かっているかどうかを確認し、また餌が減っていれば、それを補充する必要があります。
また、もしイノシシが捕獲できていた場合には、「止め刺し」(とどめを刺すこと)、そしてその後、「解体処理」を行うのですが、それにはかなりの労力がかかり、一人では難しいのです。また、捕獲には危険が伴うため、安全面からしても、狩猟者が単独ではなく、2名以上で活動を共にするのが望ましいのです。

↑箱罠は、中に米ぬかなどの餌を入れて置き、動物が中に入ったらトリガーが作動して、
扉が落ちるという仕組みになっています。見回りを原則毎日行う必要があります。
この2名が、箱罠を共同購入し、地域のいくつかの地点に設置していることで、捕獲圧を掛けることができ、なおかつ管理も共同で行い、負担が集中しないようにしたのです。
また、箱罠は毎日見回りを行い、中の餌が減っていれば、補充する必要があります。広範囲に箱罠を設置していれば、その見回りだけで大変なのですが、二人が設置している箱罠のいくつかは、地域の人が見回りと餌の補充を代行してくれています。このことから、地域の人も、捕獲に協力しようという意識があることが伺えます。
さらに興味深いのは、止め刺し(動物のとどめを刺すこと)です。
捕獲において一番危険な場面は、まだ生きている野生動物と直接対峙する、止め刺しをするときです。止め刺しには、色々方法はあるのですが、猟銃で行うのが一番安全なのです。ただIさんとTさんは銃猟の所持許可をもっておらず、猟銃による止め刺しを行うことができません。
しかし、この止め刺しのときに、地域にの他の銃を所持している人が、代わりに銃で止め刺しをしてくれるというのです。
地域で銃を所持している方は数名して、その方々はみんな快く止め刺しを承諾してくれるとのことです。
もちろん、銃の使用には費用的なコストも時間もかかりますが、それを快く引き受けてくれるということは、両者の間にしっかりとした信頼関係があることが分かります。
このように、捕獲は共同体制を構築して行っており、一年間に約50頭前後イノシシを捕まえているとのことです。これはかなりすごい数です。
またこの狩猟をしている人は、IさんとTさん以外にも何人かいます。例えばNさんは、住まいは神谷地域外ですが、この地に関りがあることもあり、神谷地域に来て捕獲を行っています。まだ果樹園を形成されているMさんも、地域内にいくつか箱罠をかけています。
以上のようなことを踏まえると、神谷地域は、かなり捕獲を頑張っている地域と言えると思います。
しかし課題も見えてきました。今後、今の捕獲をずっと維持するのは難しいというのです。
それはやはり、獲った後の処理に負担がかかるだと言います。
「私も(Tさんと)二人でやっとるから、一人でやったら何十匹も殺したりはようせん。
罠掛けるのはええけんど、そのあとの処理の問題があるき」(Iさん)
「昔は獲れたら喜んで食べとったけども、中々、食べてくれんというより、誰が処理するん
やと。ほんでうちらも、獲ったらもう埋設するなり、あるいは解体すりき、となれば解体
して肉を食べてもらうには構わんのやけど、やっぱりそっちの方、殺処分、獲った後のこ
とが大事。」(Nさん)
Iさんは、捕獲する人がもっと増えればいいが、それには色んなハードルがあると言います。
「捕獲する人が増えればいいんやけど、今ほら免許とってもよう殺さんという人がおるから
ね。何とかよ、役場の方にもいっとるけど、罠掛けるのはええけんど、そのあとの処理の
問題があるき躊躇して免許とらん人が、いっぱいおるきよね、ほんでそういう専門に人を
養成してもらうたいやけどねえ。それとその、免許取るに保険代とか何とかってお金が大
分要りますのでね。前、(県が)罠をいくつもくれとったけども、そんなお金があったら
保険代でも補助して、みんなが免許取りやすくしてもらいたい。
「やっぱり一人でやりよったら殺したりするのがちょっと躊躇する人がおったりね。そうか
と言って、私らがやっちゃくけ任せとき、ともよう言わんけんね。」
現状、今やっている狩猟者だけでは負担が大きく、かと言って新規狩猟者の確保も現状難しいと感じていることが分かりました。
さて、計3回の聞き取りによって現状把握ができました。
次回は、実際に被害を減らすためにどのようなアクションを取ったのか、その話について書いていこうと思います。
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