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ブログリレー(事務局:野田)


タテマエのテマエ(3)有刺鉄線とリーダー像



タテマエ主宰の野田です。

主宰というのは組織や団体の中心人物であり、トップに立つ人間という意味なのですが、

それは文字通りタテマエで、最近は専ら後方支援に徹しております。



学生が個性を発揮し、一丸となって現地でミッションを進めていく上での障壁を取り除く、露払い役ですね。

主宰だろうがリーダーだろうが、あくまで役割の一つでしか無いというのが僕の考えです。



・・・



さて、今回のブログですが「最近気になること」というテーマを頂きました。

ある意味で研究者は「最近気になる」という欲求反応そのものが仕事の始まりなので、

24時間365日、常にそわそわと、何かが気になっている状態です。



それはそれとして、最近ひょんなことから「有刺鉄線」についての本を読みました。





色々と思うところがあったので、備忘録がてら御紹介したいと思います。



・・・



有刺鉄線が生まれたのは西部開拓時代のアメリカです。

大西洋から上陸したヨーロッパ人が、西へ西へと土地を開拓していった時期ですね。

当時の大統領リンカーンは、合衆国の発展に向けた土地改良と生産力増強の為に、

「ホームステッド法」という法律を制定します。



ホームステッド法をざっくりと説明すると、

「未開拓の土地に家を建てて5年間耕作することでその土地が自分の所有物になる」という内容です。

国土を早急に広げる為に開拓民にインセンティヴを与えた訳ですね。



しかし蓋を開けてみると、広大な平野の開拓は簡単なものではありませんでした。

一番の悩みは、田畑を守る手段であり、また開拓の見える化でもある「柵」を用意できないという問題です。



カウボーイが走り回る荒野を想像してみると分かり易いのですが、

現地では木材の調達が難しく、かといって生垣や藪では時間が掛かる上に移設もできません。

スチール製の柵はコストが大きい上に、牛に簡単に破壊されてしまいます。

当時のアメリカ政府も「柵問題が解決しない限り開拓は不可能である」との調査報告を上げています。



そこで発明されたのが有刺鉄線です。



「否定」という概念を具現化したような、合理的かつ禍々しいフォルム。



低コストで移設も容易、何より卓越した防衛性能と、開拓の必需品として爆発的に普及します。

以降、年間数万km分の有刺鉄線が生産されていったそうです。



一方で、そもそも未開拓の土地とは、元来は先住民の領土です。

有刺鉄線の「縄張り」が、インディアンとの対立の激化を引き起こしたのは必然でした。



見かねたアメリカ政府は1887年に「ドーズ法」を制定します。

これは先住民向けのホームステッド法のような位置付けで、

政府がインディアンにも土地を割り当てるというものですが、

色々とアンフェアな部分も多くあったようです。

「法的根拠に基づく土地の配分」という概念自体、先住民の生き方とはかけ離れたものでした。



こうして彼らが「悪魔の綱(Devil’s Rope)」と呼んだ有刺鉄線は、

雄大な大地の原風景と、そこで培われた先住民の社会基盤を破壊していきました。



また他方では私有地拡大の為、イリーガルに有刺鉄線を設置するならず者も増えていきます。

有刺鉄線の利便性ゆえに、とにかく我先にと囲んでしまえば簡単に他者は侵入できません。

例え違法であっても既成事実によって「実質的には自分のもの」になる訳です。

しまいには合法/違法関係なく土地を奪い合う「柵切り競争」に発展していきます。



・・・



歴史の続きはさておき、ここで思い至るのは、

「土地は誰のものか?」「それを誰が決めるのか?」という根本的な問題です。



歴史や慣習に裏付けられた「思い」を携えた、先住民のものか。


政府お墨付きの「ルール」を味方に付けた、開拓民のものか。


不公平でも強引に「実質」を得た、ならず者のものか。



ここが法治国家である以上、不毛な思考実験だと思われるかもしれませんね。

しかし土地の取り合いではなく、話し合いや合意形成のシチュエーションだと意味合いは変わってきます。

その時々で導かれる結論は、悪い意味でケースバイケースなのでは無いでしょうか。

既得権益はともかく「有刺鉄線」がまかり通ってしまう場面は、現代でも度々目にします。



・・・



大学生だろうが、その一回りも二回りも年上の専門家だろうが、

できるだけフラットな関係で合意形成に臨む、というのがタテマエの理念です。



当然、専門家の経験と地力に頼らざるを得ない場面も多々あります。

逆に大学生の方が得意である、或いは数年で追い付ける、そんなカテゴリーもあるでしょう。

何が正しいのかは人それぞれですが、それを分かち合った上で、

タテマエが世代や専門を超えたリソースの交易場であってほしいと、心から思います。



ルールが絶対的に正しい訳ではありませんし、

思いの強さがいつだって正解を導くとも限りません。

しかし何より、見えない有刺鉄線を強引に張り巡らせてしまってはいないか、気を付けなければいけませんね。

或いは既にある誰かの有刺鉄線を、勇気を持って切らなきゃいけない時もあるでしょう。



「否定」という概念を具現化したような、合理的かつ禍々しいフォルム。



何やら説教臭くなってしまいましたが、これはある種の自戒でもあります。

僕もコミュニティの責任者として、改めて肝に銘じようと思います。



・・・



タテマエの新メンバーの募集が始まりました。

皆さんにお会いできること、共に地域づくりに取り組めること、楽しみにしております。

詳しくは4/22金、4/23土の説明会にて。詳細はこちらからどうぞ。


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